「パンドラの匣」映画、窪塚氏

パンドラの匣」映画化のニュース記事より。


窪塚洋介、太宰作品にハマる「ゲラゲラ声を上げて笑いました」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090617-00000010-flix-movi


このニュースの反応に「一体どこが笑えるのか」という批判が多々あったので、全体の読書感想とは別にちょっと書きたかった。
主人公の過ごす結核療養所から退院した男から届く手紙が、作中、異彩を放っていてやけに印象に残った。
「こんな手紙をもらった人は災難だ。悩まざるを得ないだろう。名文と言おうか、魔文と言おうか」(原文より)。
この手紙を送る役どころが、映画版での、窪塚洋介
「ゲラゲラ笑う」ほどなのかどうかはともかく、多分ツボにはまったのはこの手紙ではないかしらと思って、少し長いけど紹介したい。
私はこれを読んで、窪塚氏はハマり役だと思ったのだけど……。
この手紙が映画に登場するのかはわからないけれども。面白いので、是非使ってほしい。

過ぎし想い出の地、道場の森、私は窓辺によりかかり、静かに人生の新しい一頁とも云うべき事柄を頭に描きつつ、寄せては返す波を眺めている。静かに寄せ来る波……然し、沖には白波がいたく吠えている。
然して汐風が吹き荒れているが為に。


夕月が波にしずむとき、黒闇がよもを襲うとき、空のあなたに我が霊魂を導く星の光あり、世はうつり、ころべど、人生を正しく生きんがために努力しよう!男だ! 男だ! 男だ!! 頑張って行こう。
私は今ここに貴女を妹と呼ばして頂きたい。私には今与えられた天分と云おうか、何と云っていいか、ああ、やはり恋人と云って熱愛すべき方がいい。


それは人じゃない、物じゃない、学問であり、仕事の根源であり、日々朝夕愛すべき者は科学であり、自然の美である。
共にこの二つは一体となって私を心から熱愛してくれるであろうし、私も熱愛している。


ああ私は妹を得、恋人を得、ああ何と幸福であろう。妹よ!!私の!!
兄のこの気持、念願を、心から理解してくれることと思う。
それであって私の妹だと思い、これからも御便りを送ってゆきたいと思う。
わかってくれるだろう、妹よ!!
えらい堅い文章になって申わけありませんでした。然も御世話になりし貴女に妹などと申して済みませんが、理解して下さることと思います。
貴女の年頃になれば男女とも色んなことを考える頃なれど、あまり神経を使うというのか、深い深い事を考えないようにして下さい。私も俗界を離れます。
きょうはいいお天気ですが、風が強いです。偉大なる自然!われ泣きぬれて遊ばん!
おわかりの事と思う。きょうのこの手紙、よくよく味わい繰返し繰返し熟読されたし。
有難うよ、マサ子ちゃん!!がんばれよ、わがいとしき妹!!
では最後に兄として一言。


相見ずて日長くなりぬ此頃は如何に好去くやいぶかし吾妹


正子様
一夫兄より

「男だ! 男だ! 男だ!! 頑張って行こう。」とか
「えらい堅い文章になって申わけありませんでした。」というのがツボ。
けっこう、前衛的じゃないでしょうか。


小説全文はこちら(青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1566_8578.html