北村薫「六の宮の姫君」

六の宮の姫君 (創元推理文庫)

六の宮の姫君 (創元推理文庫)

女子大生である主人公《私》と落語家の《円紫さん》のミステリシリーズ第四作目。
芥川についての卒論を書こうとしている《私》はアルバイト先から知り合った老大家に、芥川その人が口にしたという「六の宮の姫君」についての謎の言葉を聞く。
芥川龍之介やその周辺の久米正雄菊池寛などについての四方山話が繰り広げられつつ、「謎の言葉」の解決に収束していく。


主人公は知的好奇心の旺盛な、大学生の鏡といった女の子。
しかし「岡目八目ということもある」とか「思わず膝を打った」とか妙に古びた四字熟語・慣用句を使ったり、親友の「正ちゃん」にしても語尾にやたら「〜だい?」ってつけたり二人称がカタカナで「キミ」だったり(ていうかよく読んだらボクっ娘だよ!)変な癖があるのだが、妙に居心地がいいのは一体なぜなんだぜ。
日本文学科・国文学科の女子学生や卒業生ならわかるはず。
ひとより本を読んでどこか大人びてはいる、その一面、どこかに垢抜け切れないところのある独特の雰囲気。この小説にはそれが滲んでいるのだ。
そもそも、芥川や菊池といった日本近代文学の突っ込んだ話を題材にしてる点からいってストライクゾーンが狭いとは思うんだけど……。


「いわゆる《恋愛》をしておきたかった」のが主人公のコンプレックスなのだろうが、人当たりのいい優等生で、コネあり、頼りになるオジサマ(オジイサマ?)もいて、これに物分かりのいい恋人なんかついてたら投げ出すよ!


肝心の芥川話については、いっけん関係なさそうな薀蓄があれこれ出されるのだけど最後の最後でうまくつながってくる。流石ミステリ。
でも私は実用としての文学知識や謎解きより、この「空気」が面白かったな。


その他の文学部的ポイント
国会図書館で「図書カード」を使っていた。
・芥川「六の宮〜」のあらすじに「田舎で結婚した女房はどうなるんだよ」と冷静につっこむ正ちゃんがいい。