北村薫「夜の蝉」

夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

表題作の「夜の蝉」は、どちらかといえば優等生なタイプである女子大生の<私>と、OLをしている美人の姉の話。
吉野朔実瞳子」の、美人で派手な姉と反り合わない頭でっかちの妹の関係がずっと思い浮かんでいた。そっちはもっとクールな視点だったように思うけど。

「事故みたいだな。兄弟姉妹。一方的に降りかかる一生モノの関係。不幸のみを共有する血のつながった他人。だろ?」
吉野朔実瞳子」より)

「相性が悪い」ですまない関係、きょうだいの間には、ほんの小さな確執が生まれそのままにされていることはよくあることだと思う。それでも大概は、きょうだいだからこそ、大丈夫なのだ。
理由のない、目に見えない強い繋がり、それが血ということなのかなと思う。時の流れが味方をして、雪融けの時期が<私>には来たのだろう。
この私も、年の離れた弟が思春期になってからなんだかほとんど話せなくなってしまっていて、だからこそ特別感じるものがあった。


ほかに「六月の花嫁」もよかった。伏線がきれいに張られているよねえ。
このシリーズ、ただの謎解きに終始しないところがいい。キャラクターがうすっぺらじゃないんだなと感じる。
つねづね良いと思っている正ちゃんと江美ちゃん。「おっとりしているようでいて、実は誰よりしっかりしている」江美ちゃん、「ざっくばらんでありながら、とても女性らしい。シニカルなようで、情に篤い」正ちゃん(「空飛ぶ馬」安藤昌彦氏の解説より)。こんなふうに要素の違った性格をあわせもって描かれているところに深みがある。