北村薫「空飛ぶ馬」

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

旅先で「梁塵秘抄」読むって……。


「六の宮の姫君」を読んでから未読の第一作目に戻ってきた。最初は短編集だったとは知らなかった。読みやすい。
やはり<私>という主人公を嫌いになれない。旅行に行って合間に「梁塵秘抄」を読むだとか、幼い頃黄表紙を絵本代わりに読んでいたとか、標準的な女の子じゃないだろー、とつっこみたくはなるけれど。そんな文学部生もどこかにはいるのかもしれないけど……。


まだ、他人に対する評価軸を持たなくて、なにを見ても「読んだ物語」や「自分の幼少時代」に自分の価値観を探っていくのが<私>の語りのパターンだ。人を攻撃する事を知らないから、いやみが無い。だからずっと安心して読める。
女の子三人の旅行先でちょっとした意見のぶつかり合いになった場面にはちょっと冷や冷やしたけど。またこの三人のキャラクターもバランスがいい。頭でっかちな<私>と、クールで芯の強い「正ちゃん」(※ボクっ娘)、ふわふわおっとりキャラの江美ちゃん。思わず漫画のような絵が頭に浮かぶ。


実はタイガー&ドラゴンから来て落語ネタに期待していたのだけど、まったく知らない人が落語の何かを得られるといったものではなく「落語を知っている人ならより面白い」というような薀蓄の入れ方だったので、そこは外してしまったな。
(「外へ出て雨が降っていると思ったら降っていなかった」って何?)
文学ネタに関しても「わかる人にはわかる」ネタなんだよね。こちらが知識をつければ、また何年かあとに読み直した時、わからなかった仕掛けがわかるようになっているだろう。それに期待しようと思う。


お茶のお供によく合う、幸福なミステリだった。