三島由紀夫「美しい星」

美しい星 (新潮文庫)

美しい星 (新潮文庫)

日本の純文学らしくない快作、という印象。


一家全員がそれぞれ別の星から来た宇宙人である自覚と人類の救済意識に目覚める、という設定もそうだし、ストーリー佳境の人類の未来<滅ぼすのか、救うのか?>に関する父・重一郎と思想的に敵対する羽黒助教授他二名の大討論の長台詞も、解説にあったように、まるでドストエフスキーみたいだ!と思った(詳しくは知らないけどさ)。
日本の小説は、もっとぐだぐだしていて、こんなふうに真正面から問題をぶつけてこないもの。
あらゆる意味で突き抜けているなあと思う。


しかし肝心の内容は、悲しいかな鈍感な私にはそれほど強く響いてこなかった。
文章の詩的な美しさのほうが心に残った。ひとつ引用しておこう。

かつて彼は、無為のうちで、たとえば庭木を見るにつけても、どうして梢が幹よりも細く、どうして葉を失った枝々があんなに繊細に青空に刺っているのか、考えずにいられぬような性質であった。
こうした欅の巨樹の冬のすがたは、地図上の川の微細な支流を思い出させ、あたかも天に樹木の見えない源泉があって、その青空の分水嶺から無数の梢の枝々が流れ落ち、一つの黒い幹に落ち合って、それらが忽ち固まって木の形を成したように思われた。
樹々は天から流れ落ちた繊細な川の晶化だから、再び天へ還流しようとして、枝葉を繁らせ伸び上って行くのではなかろうか?


ところで、兄が入れこんでる政治家と羽黒助教授らと一緒に歌舞伎座を見に行く場面で、「三島由紀夫の新作物なんか見るに及ばない」みたいな一節が出てくる。三島先生の意外なユーモアがのぞけて面白い。