松浦理英子「裏ヴァージョン」
- 作者: 松浦理英子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/11/09
- メディア: 文庫
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構造自体にしかけがあって、短編小説群のかたちをとりながら、
実はその外側にそれを書いている女性(書き手)と
それを読んでコメントをつける女性(読み手)がいて、
その二人はどういう人物でどういう関係なのかということが
章を追うごとに少しずつ分かっていく。
しぜん、「書き手」によって書かれた小説それ自体よりも、
「書き手」と「読み手」はどういう関係なのかということに興味がシフトしていった。
もしかしてこの二人の女性はそういう関係なの?あれやっぱ違うの?とか、
こんなこと書いちゃったら「読み手」の彼女は怒らない?とか
いちいち行間を意識せずにはいられない。
それはこの小説の巧みな構造がそうさせているのに、
あたかも主体的に読もうとする自分が賢くなったように錯覚したりして。
おかげで久しぶりに「読書」をしたような思いがある一方、
まだ全然読み切れてない部分があるなあ……という不達成感もある。
それだけこのテクストは複雑で、「裏」を読む面白さがあると思う。
書き手と読み手がどういった人物・関係なのかは、
結局「書かれたもの」としてしか示されないから、
どこまでが本当でどこからが嘘なのかは厳密にみていかないと、はっきりとわからない。
谷崎潤一郎の「鍵」なんか通じるところがあるんじゃないかな?
(「鍵」の読後感想……谷崎潤一郎「鍵」 - 異類感想記)
その他メモ
・40代女性同士の恋でも性欲でも家族でもない関係、
というのがあまり扱われないモチーフなので貴重だった。
・文体が小気味いい。
・「トリスティーン」、やおい女子の話が普通に面白かった。