いくえみ綾「子供の庭」

子供の庭 (1) (マーガレットコミックス (2360))

子供の庭 (1) (マーガレットコミックス (2360))

キャリアの長いいくえみ綾さん、家族モノも結構描いていて、「子供の庭」、「who(『バラ色の明日』より)」、「かの人や月」は勝手に「家族三部作」なんてでっちあげてしまいたい名作揃い。
その原点であり、真っ向から家族をテーマに据えているのがこの作品だ。
もちろん別マらしく恋愛要素も出てくるのだけれど、主軸はあくまで家族の話。
他の作品と比べてみても、どちらかというなら「who」は家族関係から紡がれる少女自身を、「かの人〜」は個性的な家族それぞれの人間模様を描いているのに対し、家族の「関係」それ自体を正面から扱っているのはやはり「子供の庭」だ。


主人公は中学三年生。父と祖母(オババちゃん)と平和に暮らしているなかで、離婚した母が突然亡くなり、母に引き取られていた兄が家に戻ってくる。
この兄がちょっと性格の悪い奴で、家族は気を遣ったり振り回されたりするのだけど、この歳になってくるとそんな麦(兄の名前!)がいじらしく可愛く見える。彼の心のわだかまりは至極もっともだと思うし、心優しいみんなが傷つかず暮らせればいいのにと願わずにいられない。
伏線の張り方もすばらしくて、いくえみ作品のうちでは地味だけれど、忘れずにいたい傑作だと思う。


一冊になっている文庫版も一応リンク。本当は読んだのはそっちなんだけど、絵が出ないから……

子供の庭 (集英社文庫(コミック版))

子供の庭 (集英社文庫(コミック版))