松浦理英子「葬儀の日」

葬儀の日 (河出文庫―BUNGEI Collection)

葬儀の日 (河出文庫―BUNGEI Collection)

松浦理英子の第一作品集でありながら、充分すぎるくらいの一冊。

  • 「葬儀の日」

自分の鏡像としての「笑い屋」の彼女と親密になる、「泣き屋」の少女。
他者であるはずの存在にもうひとりの自分をみて閉鎖的な世界に籠り、
それ以外の存在を拒絶すれば、社会からは軽蔑される、弾かれる。
このような完結したコミュニケーションのとりかたは、
「体なら1コでいいのに」と歌った川本真琴のようで、
あるいはエヴァンゲリオンのようで(たとえがただの自分の趣味か)、
なんだか90年代に流行ったよねえという既視感があるのだけど、これは1978年の作品。
彼女達の関係を河の両岸になぞらえた比喩はとても印象的。
ストーリーや文章にもまったく無駄がなくて、まさに「原型」というにふさわしいデビュー作だと思う。

  • 「乾く夏」

三角関係、レズビアンを思わせる女性二人の駆け引きに富んだ会話、
ここにも後に発表される作品の初期形を発見できる。

女社会のいじめ的いやらしさがリアルで痛かった。
おそらく「肥満」の描かれ方が多少コミカルなのがこの物語の救いになってるんだろう。
ここでもサド的、マゾ的なモチーフがあらわれ、興味深かった。