川端康成「古都」

古都 (新潮文庫)

古都 (新潮文庫)

傾きかけた京都呉服問屋の一人娘――実は幼い頃引き取られた捨子だった千恵子が、北山杉の村で暮らしている生き別れの双子のきょうだい、苗子と再会する。
捨子にされたのは千恵子だが、村で奉公している苗子のほうが却って自分と千恵子とは身分ちがいだと感じ、千恵子をたずねることができない。
彼女たちの娘らしい心の機微が京都の年中行事とからめて描かれる。


片方は呉服問屋の娘として愛情ぶかく育ち、片方は杉山の自然のなかで強く生きていた。「衣」と「住」、暮らしそのものである環境のなかで生きる登場人物が瑞々しい。
着物、帯の図案、クレエの絵、といった小物もひとつひとつがイメージにうったえてくる。


恵子と苗子の姉妹は(当時のことであるから)男性に対して決定権を持つことはないけれど、それ以外のことに関しては頑固なくらいに芯の通ったところがあって魅力的だった。
それに比べて千恵子のまわりの男達は、彼女の容色のよさに疑いもなく惹かれているのだろうが、彼女たちの内面をどれほど知っているのか少し疑問。
美しいものが至上であるというのが、この世界の価値観なのかもしれないけれど。
あるいははじめからこの小説は、心の純粋さと外見の美しさを別個のものとして描いていないのかもしれない。


最後の雪の場面の透明感がとても印象深かった。
絵を観るような、そんな小説だった。